・日程 2025/2/13(木) 1930-2100(Zoom)
第5回目のVOJオンラインの講師は、バレーボール元日本代表・益子直美さん。
益子さんは2015年から『監督が怒ってはいけない大会』を開催され、今年で10年目となりました。
スポーツ指導のあり方に一石を投じて大きな話題を集めたこの取組みの、そもそもの開催の思いや10年間での変化を軸にお話を頂きました。
益子さんは高校生の頃に全国大会準優勝を果たし、実業団チームでは日本一になりながら、各種ハラスメント渦巻く昭和のバレー環境のなかで、いつも指導者の顔色を窺い、ただただ言われた通りに動くことだけを心掛けていたそうです。
後年にご結婚されたプロロードレーサーのご主人はスポーツを通じて怒られたことがなく「なぜバレーは延々と怒られながらやってるのか」と驚かれ、また監督の暴言などで自殺してしまうバレー部員などの事件もなくならないなか、益子さんは自身の名が冠された大会を『監督が怒ってはいけない大会』に衣替えすることを決意。
監督が選手を怒鳴るスポーツの代名詞であったバレーボールの世界で『監督が怒ってはいけない大会』がスタートしました。
しかしその試みは世間に知れるやSNSなどでバッシングの嵐。
「自分も怒鳴って育てられたくせに」「怒鳴らないでどうやって選手に言う事をきかせるんだ」「キレイごとの売名だ」といった酷い中傷に晒され続けたそうです。
その一方で支援者やアスリートの参加者も増え、主旨に賛同するグループによる大会の開催も全国各地で年々増え続けていきました。
しかし、しぶしぶ参加してきたチームの指導者には「今日は俺は怒鳴らないから、試合の勝敗も問わない」という監督もいるそうで、益子さんはそうした指導者に「怒りを手放すことと、勝利を手放すことは別です。怒りを失くしながら勝利と育成を目指して下さい」と伝えるそうです。
実際にこの大会に10年前の第一回から参加している福岡の小学生チームは2024年に全国大会で優勝を果たし「怒らなくても必ず勝てる」を実現しました。
益子さんは言います。「日本では『スポーツマンシップ』という言葉を選手宣誓の時だけ口にして、その本来の意味を誰も知ろうとしない」と。
スポーツ発祥の地であるイギリスでは、スポーツマンとは「他人から信頼を寄せられるグッドフェロー(善き仲間)」であり、スポーツマンシップとは、そうした人達による「グッドゲームを実現するための心構え」のことだそうです。
怒鳴られて続けてきた子供は(怒られないように…ミスしないように…親や監督の言う通りに)とそればかりになってしまい、自己肯定感も考える力も育ちません。
しかし、できないことを怒るのではなくチャレンジしたことをほめる指導法、ミスを「ナイストライ!」と称賛する環境が作られてくれば、グッドゲームを実現する心構え=スポーツマンシップがようやく日本でも醸成されていくのかも知れません。
「なくなることが一番の目的」という『監督が怒ってはいけない大会』。
しかし、10年を費やした現在でも「高圧的な指導をゼロにすることは難しいのではないかというのが、今の正直な思いです」とも益子さんは仰っていました。真正面から変化を追い求めてきた方だからこそ感じ取れる壁の強大さや変わらざる体質に対する、率直な思いだと思えます。
当初は10年間での活動終了を予定していたとの事ですが、2015年のスタートから10年目を迎えた現在、「今後はこれまでとは仕組みを変えての継続を試行錯誤中です」とのことでした。
益子さんが蒔いた種が全国で芽吹き始め、スポーツ指導を取り巻く環境がこの大会を通じて変わってきたなかで、この先駆的取組の継続が検討されるのは素晴らしいことだと思います。ぜひ今後とも『監督が怒ってはいけない大会』やその発展形が継続される事を願います。この度は素晴らしい取組のお話を熱くお伝え頂きまして、誠にありがとうございました。